公演ルポvol.6|ミエナイスイソウノカベ

ケーキを海底のポストへ投函 公演ルポ

短いような長いような、でもやっぱり長い稽古期間を終えて
劇場に入ってしまうと、役者もスタッフも関係なく劇場の準備に入る。

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今回はケーキ投函に限らず、いつもの公演と異なるものが多かった。
やはり複数台のカメラによる動画の収録(通常は記録用の1台のみ)
潰された最前列、1つづつ空けられた座席、10分間の換気時間
舞台上には袖も合わせて人数が制限された状態。

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今回ほど舞台上と客席というものを考えたことは無かったかも知れない。
劇場は舞台上と客席と2つの空間から成り立っている。
緞帳が下りれば、この空間には布の壁ができて明確に2つの空間となる。
しかし、緞帳が上がっている状態だと隔たるものは何もなく完全な1つの空間となる。
公演によっては感染症予防のため2つの空間を隔たる
透明なビニールシートを用意する公演もある。
しかし、ケーキ投函では客席の最前列を潰すことで距離を作り、見えない壁とした。

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1つの空間であるはずなのに、心理的に見えない壁よって2つの空間が作られる。
舞台と客席というのは、そんな暗黙の了解のもと不自然を自然としている共通認識だ。
演劇用語では「第四の壁」と呼ばれる概念だ。
極端に言えば路上で芝居や漫才、パントマイム等のパフォーマンスをするとき
同じ空の下で、同じ道の上で、同じ光のもと、同じ雑踏を共有しているのに
演者と観衆の間には目に見えない空間の区切りがあり別空間として認識される。
段差や地面に明確に線引きされたようなものが無いにも関わらず
演じている人がいれば聴衆はそこに見えない壁を無意識に見てしまい、
その向こうをアクティングエリアという切り取られた空間としている。

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初回の文章で演出家を料理人に、役者たちをサカナに例えたが、
それにそのまま準ずれば、役者たちのはサカナであり
舞台と客席の間にはガラスの壁があり、舞台上は水族館の水槽ということになる。
水槽のサカナたちは外の人間たちに別に喜んでもらおうとは思っておらず
ただ水槽という与えられた場で「生きている」だけなのだ。
本当の芝居の理想形は、そんな水槽の魚達なのかも知れない。


ミエナイスイソウノカベ

2020年12月22日

文:甘味屋 餡子 (役者)